1.
ありえねえ。
なんもないところで転んだ。
しかも何でこんな時にあたしは足だしてんだ。豪快にすりむいちゃってるし。
つか…痛ぇ…。
「大丈夫?」
痛いのとカッコ悪いので暫く立ち上がれずにいたら、頭上から降ってきた声。
顔を上げると人懐っこい笑顔の青年があたしを見てた。
「立てる?」
彼が差し出す手に掴まる。
一応芸能人のあたしが見ず知らずの人にそんなこと…。
なのにあたしはなんの躊躇もなく、手を伸ばしてた。
「血が出てる」
彼はあたしの前に膝まづいた。
カバンの中から取り出したのはハンカチで。
「あ、汚れちゃう…」
「いいよ、そんなの」
そう言って巻いてくれた。
あたしの中で一目惚れなんて有り得ないと思ってたのに、
あたし、この子のこと…。
「あの…」
「はい」
「名前…」
「あ…俺の?」
「うん…」
「高橋です」
「高橋?下は?」
「愛…光」
「高橋愛光くん」
「うん」
ここで話さなきゃもう会えないかもしれない。
あたしはあわててメモに自分のアドレスを書いた。
「これ…」
「アドレス?」
「はい。よかったら登録してください」
「いいんですか?」
「え?」
多分、彼はあたしが吉澤ひとみだってわかってるんだろう。
「いいんです」
あたしが言うと、高橋くんはメモを受け取ってくれた。
「メールします」
「ほんと?」
「必ず」
それだけで幸せな気分になってるあたしがいた。
高橋くんの背中を見送りながら、また会えますように、そう祈ってた。