11.
あーしを一目惚れって言ったよしざーさん。
もうこれ以上騙せない。
「ひとみ」
「ん?」
「いや…よしざーさん」
「え?」
「ごめんなさい」
「よく…わかんない…」
「高橋愛光なんていないんよ」
「だってあたしの目の前に」
「あーし、高橋愛やよ」
「…あたし…高橋に抱かれたの?」
「ごめんなさい」
「でもちゃんと男だったよ?」
あーしは誠心誠意、あーしの身におこったことを話した。
段々とうつむくよしざーさん。
石川さんも信じられないだろうけど事実なんだよって助け船を出してくれるんだけど…。
よしざーさんの顔からは笑顔が消えていた。
「ゴメン、頭冷やしてくる」
よしざーさんが外に飛び出す。
置いたままの荷物がよしざーさんの動揺を表している。
10分たっても20分たっても、よしざーさんは帰って来ない。
出ていく間際によしざーさんが見せたせつなげな表情が瞼にこびりついて離れない。
「捜してくる」
あーしは石川さんが止めるのも聞かず飛び出した。
よしざーさん…よしざーさん…
心の中でよしざーさんの名前を叫びながら走る。
よしざーさんになんかあったら、あーしのせいや。
だけど、いくら走ってもよしざーさんは見つからなくて…。
挙句、雨降ってくるし…最低や…。
冷たい雨に打たれて震えてくるし、走りすぎて喉の調子はおかしいし…。
でも…よしざーさんに会わなきゃ…。
携帯がなる。
高橋愛の携帯に登録している名前『吉澤さん』で表示が出てる。
「もしもし…」
『高橋、どこにいる?』
高橋ってよしざーさんが呼んだ。
愛光のままの声なのに。
「よしざーさん、今、高橋って…」
『信じたくないよ?でも…高橋の携帯に愛光くんが出たら信じるしかないでしょ』
まだ怒ってる…。
『どこにいる?』
あーしは自分の今いる場所を告げた。
程なくしてよしざーさんが来る。
コンビニのシールが着いたままのビニール傘をさしかけてくれる。
「バカ」
「え?」
「すぐ風邪引くくせに」
「…」
「高橋すぐ風邪ひくでしょ?」
笑顔なんだけど、目は涙目で。
ハンカチであーしの髪を拭いてくれるけど追い付くわけはなく。
「ねえ高橋…愛光くん」
「ん?」
「ホテル行こ?このままじゃ身体に悪い」
「よしざーさん…」
「名前で呼んでよ…」
よしざーさんの頬を涙が伝う。
それを見たら…。
あーしの目からも涙が溢れた。
「男になっても泣き虫なんだね」
頬を濡らし笑うよしざーさんがいとおしい。
抱きしめたいって思った。
「ホテル行こうか」