<中編>

その日最後の撮りは別班で撮影で、あたしの方が先に部屋についた。
朝、慌ただしく出掛けたからちらかったままの部屋を愛ちゃんが帰ってくるまでに片付けておこう。
そう思って片付け始めたら電話がなった。


「はい」
『吉澤、高橋戻ってるか?』
「いえ…高橋どうかしたんですか?」
『いなくなっちゃったんだ』
「はぁ?」

あたしはロビーに慌てて降りた。

「どういうことですか、いったい!」
「ロケ終わりでトイレに行ったきり戻ってこないんだ」
「一人で行かせたの?」
「ああ」
「なんで一人でなんか行かせるんすか!」

なんでだかわかんないけど頭の中が沸騰したみたいだ。
スタッフもあたしの掴みかからんばかりの勢いに引いている。

「彼女に何かあったらどうすんだよ!」

もう自分で止められなかった。
あたしはスタッフの襟首をつかんでしまった。

「吉澤さん!」

愛ちゃん?

声のした方向を見ると愛ちゃんが…。
あたしは愛ちゃんに駆け寄った。

「愛ちゃん大丈夫?怪我してない?」

こくこくと頷く愛ちゃん。

「よかった…」

強張ってた身体から力が抜けるのと同時に涙が溢れた。
愛ちゃんの近くに膝をついて泣いた。

「吉澤…ごめん」

スタッフが謝ってる。
顔を上げると『どっきり』と書かれた看板。

…まじかよ…。

「吉澤さんごめんなさい、私…」
「愛ちゃんは悪くないよ…」

もうさ、怒る気力がないよ。
目の前で泣きそうな顔してる愛ちゃんの手を握って部屋へ戻った。

「本当にゴメンネ?」
「知ってたの?」
「うん…」
「バカみてぇだな、あたし」
「ううん…嬉しかった」
「そう?」
「吉澤さんが私のために怒ってくれた」
「当然じゃん」
「私のために泣いてくれた」
「うん…まじ心配になって…愛ちゃんの無事な顔見たら泣けて来たんだ」

愛ちゃんの腕に触れる。

「無事に帰って来てくれてよかった…」
「だってどっきりやもん」
「そんなん関係ない。まじ心配したから…」

こんなに人を心配したのは久々かもしれない。
あたしは自然と愛ちゃんを抱きしめた。

「もうこうやって愛ちゃんに触れられないかと思った…」
「そんなに心配してくれたの?」
「うん…単純バカって笑ってやってくれ」
「ううん、嬉しいもん。吉澤さんは私に興味なんてないかと思ってたから」
「無関心なわけないじゃん。泣くくらいなのにさ」

これが相手がミキティや麻琴だったらふざけてキスとかしてたんだろうか。
なんでこんなに意識しちゃうんだろう。



とりあえず寝よっかってベッドに入ったけど、身体は疲れてんのに寝付けなくてあっちへゴロゴロこっちへゴロゴロ

「吉澤さん」
「…ん?」
「眠れないの?」
「うん。なんかね頭冴えちゃって。愛ちゃんも?」
「うん…」
「ねえ」
「はい」
「そっち行っていい?」
「へ?」
「あの…ほら、昨日よく眠れたから」

我ながら苦しい言い訳だ。

「吉澤さん眠れないのって私のせいですよね…」
「そ、そんなことない!」
「いいですよ、一緒に寝ましょ」

ニヤけそうになりそうな気持ちを抑えつつ、枕を抱えて隣りのベッドへ。

一つベッドに入って至近距離で愛ちゃんの顔見てたら、またわけもなく目がウルってきた。

「泣きそう?」
「うん」

正直に頷く。
そしたら愛ちゃんはあたしの頭を自分の胸に抱きしめてくれたんだ。
きっと、すっごい勇気でしてくれたんだろう。
愛ちゃんの胸はありえないくらいドキドキ言ってた。


つづく
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