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そして夜。
いつものように二人で帰ってきて居間でくつろぐ。
「ねえ、愛ちゃん」
「はい」
「愛ちゃんさ、産みな」
「え?でもこの子のパパは…」
「それはわかってる。でもさ、今日1日愛ちゃんのこと見てて、もうさ、愛ちゃんママになってるんだよ」
「え?」
「無意識におなかをかばってる」
「…でも」
「愛ちゃんは産みたくない?」
「消し去りたい記憶の結果の赤ちゃんで…。でも赤ちゃんに罪はないんよね…」
「そうだね…」
「あーしが産むって言ったら…どうなるんやろ…」
「あたしはそばにいるよ」
「え?」
「愛ちゃんさえよけりゃ一生そばにいる」
「でもそんなことしたらよしざーさんが…」
「あたしが…何?」
「よしざーさんの一生がダメになってまう」
「あたしが選んだ道でも?」
「よしざーさん、それ絶対同情で言っとる」
「はあ?同情なんかじゃないさ。愛ちゃんさ、あたしの性格わかってるでしょ?
この2ヶ月、あたし、ずっと愛ちゃんのそばにいたよね?同情でそういうことできる人間じゃない」
「あーし…どうしたら…」
とうとう泣き出してしまった愛ちゃんをあたしは抱きしめる。
だけど…。
だけど愛ちゃんはあたしから離れたんだ。
「愛ちゃん…」
「一人に…して?」
「…わかった」
あたしは寝室に居場所を移した。
二時間くらいたったろうか。
一向に寝室にこない愛ちゃんに、あたしは居間へ。
…愛ちゃん?