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そして翌日、あたしは『高橋の件で話があります』とだけスタッフに伝えて事務所に向かった。
社長室に通されて事情を一から説明した。
愛ちゃんは引退してもいいって言ったんだけどさすがにそれは事務所から止められて、
一年の休業ということで落ち着いた。
「で、何で吉澤が?」
社長の疑問は至極当然だ。
「あたし、パパになろうと思って」
「え?」
「高橋と一生一緒にいます」
大人たちの口をあんぐりあけた顔ったらなかったね。
話が終わって部屋を出たらマネージャーに呼び止められた。
マネージャーに促されて会議室に入ったらメンバーが全員いた。
朝、ミキティにいきさつを報告したから、情報はミキティ発か…。
あたしはミキティを見た。
視線が合うのを待ってたかのようにミキティが話し始めた。
「よっちゃん、美貴たち色々考えたの。来月から愛ちゃんが休むこともね。
で、出た結論。愛ちゃんが休んでる間、誰も愛ちゃんのパートは歌わないし、
フォーメーションも変えない」
「え?」
「いつでも愛ちゃんが帰ってこれるように」
「美貴ちゃぁーん」
愛ちゃんがミキティに抱きついて泣いた。
ミキティも「もぉー、仕方ないなあ」って言いながら泣き笑いだ。
他のメンバーもみんな泣いている。
仲間っていいなあって、素直に思えた。
「んでさ、よっちゃん、もう一個の方はみんなに話してないから。なんて言っていいかわかんないしね」
「わかった」
そう言ってあたしはみんなと向き合った。
「あたし、これから愛ちゃんと住むから」
「へ?」
「これから先、ずっとね」
そしてその言葉を実行に移すべく、夜、仕事終わりで愛ちゃんを連れて自分んちへ向かった。