19
「とりあえずきてや」
その夜、愛ちゃんが電話で揉めている。
「来たらわかるがし」
どうやら相手はご両親らしい。
「愛ちゃん、どうかした?」
「パパが…理由がわからんと行かれんて…」
「ちょっとかしてみ?」
あたしは愛ちゃんから電話を受け取った。
「もしもし、お久しぶりです、吉澤です」
『こちらこそ、ご無沙汰してます。今仕事場ですか』
「いえ、愛ちゃんのマンションですよ」
『愛の』
「はい。今、わけあって一緒に暮らしてます。
その辺りもふまえてあたしの方からもお話したいんですが、来ていただけませんか?」
『わかりました…。週末に上京します』
電話を切ると、愛ちゃんが心配そうにあたしを見ていた。
「大丈夫だよ、お父さん来てくれるって」
「よかった…でもな…」
「反対されても、許してもらえるまでがんばるから」
「うん」
人なつっこい笑顔で愛ちゃんが微笑む。
この笑顔があるから、あたしは愛ちゃんを守っていけるんだ。
「ねえ、よしざーさん」
「ん?何?」
「あーしね、来月になったらやりたいことがあるんよ」
「やりたいこと?」
「うん」
「何やりたいの?」
「車の免許取りに行きたいの」
「免許かぁ」
「うん。でね、よしざーさんを送り迎えするん」
「おぉ。まじ?」
「あーしのために今、一生懸命走り回って…よしざーさん、あーしが抱きしめてもおれそうやざ。
だから…楽させてあげたい」
「嬉しいこと言ってくれるじゃん…」
「だから、待っとって?」
「おぅ。楽しみにしてる」
あたしが今、愛ちゃんにやってること、全然苦痛じゃないんだけど、
愛ちゃんがあたしのことを思ってくれてることは素直に嬉しかったし、
また今まで以上に守ってあげたいって思った。