03:喉とカモにはネギを。
翌日に歌収録を控えたある日、
今回歌う歌はハモリがあるということであたしはスタジオに練習しに行った。
この曲だからとMDを渡され、デュオする相手も知らないままってのも変な感じだけど。
集合の30分前にスタジオに入り、相手を待つ。
「おはようございます」
少し掠れた声に顔を上げる。
あ、高橋だ。
ハモる相手は高橋か。
気持ちよくハモれそうだな。
つーか、今、声おかしくなかったか? 高橋。
スタジオ入ってもずっとマスク外さないしなんか変だ。
と思ったら咳してるし。
「風邪?」
「うん…」
申し訳なさそうに肩を落としてる。
「昨日帰ったら喉痛かったの」
「うん」
「朝起きたら、咳と声が…」
「あららら」
「どうしよう…」
泣きそうな顔してる。
「多分さ、高橋はぶっつけ本番で歌えるよ。だから今日はあたしの歌見てて?
んで、音程とかダメだったら直してよ」
「よしざーさん…」
「今日無理して明日歌えなかったら元も子もないでしょ? ね?」
無理やり納得させてあたしは歌い始めた。
高橋は近くで見ててくれるんだけど、時折咳き込むのが気になる。
これはあたしが早く完璧に仕上げて早く切り上げないと。
1時間でOKが出た。
やれば出来るじゃん、あたし。
「高橋帰るよ」
「え?」
「いいから、おいで」
どうやら、今日は妹さんが実家に帰っているらしく一人だとか。
「行っていい?」
「あーしんち?」
「うん」
「いいんですか?」
「心配だし」
今日はあたしのスッペシャル看病付きだよ、ハニー。
家についてもずっと咳をしてる高橋にネギ湿布を作ってやる。
「くさ…」
「我慢しな?」
「…はい…」p
湿度管理やら、水分補給やら、あたしが持ってる知識の全てを導入して、喉にいい環境を作る。
「ありがとう、よしざーさん」
「ん?」
「いろいろやってもらって…」
「これくらい大したことないよ。早く高橋の喉治ってほしいし」
「うん…」
「寝付くまで見ててあげるから寝な?」
寝る前にも薬を飲ませたから寝つきはよかったんだけど、
やっぱり一時間くらいたって身体が温まると咳をし始めて。
あたしもベッドにもたれて寝かけちゃってたんだけど、はっと目が開いた。
夢うつつで咳き込む高橋の背中を擦る。
だけど、ずっと続けて出るもんだからあたしは高橋の身体を起こした。
「大丈夫か?水飲む?」
返事も出来ないほどに咳が出てる。
あたしは慌ててキッチンへと向かった。
水を持って帰ってきたら…。
「あ…」
「ごめんなさい…」
「間に合わなかった?…」
「うん…」
「こっちおいで?」
半泣きでこっちにくる高橋に水を渡す。
「うがいしといで? 片付けとくから」
「でも…」
「いいからはやく。病人は言うこと聞く!」
ベッドの上でなかったことが不幸中の幸いだな。
そう思いながらお掃除。
ふと気づくと後ろで高橋が思いっきりなみだ目。
「どした?まだ気持ち悪い?」
「ううん…だって…こんなこと…」
「だから気にすんなって言ったろ?」
ウルウルと今にも涙が溢れそうな目で見上げないでよ。
ネギは湿布だけで十分だよ。
かもがネギ背負ってきたってまさにこのことだろ。
「…よしざーさん?」
黙りこくったあたしに高橋がまた覗き込む。
もう…
我慢できねえ…。
ぎゅうっと高橋を抱きしめる。
「ちょ…よしざーさん?」
「このまま寝よ?」
「へ?」
高橋がネギ背負ってくるから悪いんだ。
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