その日、連絡事項があって愛ちゃんに電話をした
電話が繋がったとおもったらいきなり聞こえて来たのは愛ちゃんが咳込む声。

「愛ちゃん、大丈夫?」
「ケホケホ…大丈…ケホ…夫です…ゲホゲホ」

全然大丈夫じゃないじゃん。

「風邪?」
「みたい…ゲホゲホッ」

咳が落ち着いてから喋ろうと思って暫く待ってたんだけど、
一向に収まる様子がない。
なんか聞いてるのが辛くなってきた。

「そっち行くわ」
「え?」
「心配だから」

電話を切って急いで用意して。
お母さんに
「愛ちゃんが風邪ひいて辛そうだから様子見てくるわ」って告げた。

「あら、あんたの風邪うつったんじゃないの?」

…そうかも。
先週あたしが風邪ひいてボロボロだった時に、
愛ちゃんが「大丈夫ですか?風邪もらってあげますよ」
なんて言って、わざとあたしにくっついたりしてたんだ。
きっちりうつったのか。
どうりであたしの風邪が治るはずだ。
そうだとおもったらますます責任感じちゃって、
自然と足も早くなる。


愛ちゃん家に着いてチャイムを押すと、
しばらくして愛ちゃんが出て来た。
うわ…具合い悪そう。

「大丈夫?…じゃなさそうだね」
「咳が止まんなくて…」
「薬飲んだ?」
「うん」
「ごめんね、あたしの風邪かも」
「そんなことないですってば」
「いや、タイミング的にそうでしょ。
しかもあたしより症状酷くなってるし」
「そんな、気にせんとって下さい」

そう言ってまた愛ちゃんは咳込んだ。
愛ちゃんの咳って喉の奥の方から出てる感じの苦しそうな咳なんだよな…。
本人も辛そうだし。
しかも一旦出始めるとなかなか止まんないみたいで、涙目になってるし。
あたしは慌てて愛ちゃんの背中を摩る。
玄関先だったから居間に連れてって座らせた。
水をくんできて飲ませて、しばらくしてやっと落ち着いて来た。

「はぁ…苦しかった…」
「辛そうだね…」
「いつもですけどね」
「いつも?」
「喉風邪ひいちゃうとこんなです」
「あ、なんか食べる?作ろうか?」

こんな状態じゃ作れないだろうと思って聞いた。

「いや…いいです」
「なんか食べたの?」
「食べてないですけど…」
「じゃあ…」
「咳止まんないじゃないですか、胃のあたりが気持ち悪いんですよ。だから…」
「あ…ごめん…」

空気読めよ、あたし。

二人の間に妙な沈黙が流れる。

「あ…ガキさん呼ぼうか?」
「いや…一応あっしの方が年上やし、里沙ちゃん未成年やし…」

あたし、何言ってるんだ?
梨華ちゃん並に空回り。
自分で自分がじれったい。

「んっと…あたし、いようか?」
「え?」
「心配だし、泊まって行こうか?」
「…いいの?」
「いいよ」


普段あたしには自分から甘えない愛ちゃんが素直に受け入れるくらいだから、
よっぽど辛いんだろう。
暫く話してたらまた咳込み始めた。
あたしは背中を摩るんだけど、なかなか収まらない。
おえって何回も吐きそうになって、やっとのことで咳が止まったんだけど、
すげえ辛そう。

「大丈夫?」

それしか言えないあたし。
こくこくとうなづいてはくれるけど、
愛ちゃんは胃のあたりを摩ってる。

「気持ち悪い?」
「うん…」
「吐く?」
「ううん…」

あたしは後ろから愛ちゃんを抱っこして、胃のあたりを撫でてあげた。
愛ちゃんの背中越しに気管支がぜろぜろ言ってるのがわかって、
切なかった。
10分くらい経ったのだろうか、愛ちゃんがあたしを振り向いた。

「明日も仕事だし、そろそろ寝ましょうか」
「そうだね」

愛ちゃんをベッドに寝かせて、あたしはベッドにもたれて床に座り込んだ。

「あ…」
「ん?」
「座って寝るんですか?」
「うん」
「疲れ取れないですよ?」
「大丈夫だよ、一晩くらい」
「あの…」
「なに?」

愛ちゃんを見ると、何かもじもじしてる。
…まさか…ねえ…。
何を言い出すのかってじっと見てたら、
愛ちゃんはベッドの端へとつめはじめた。

「どぞ」
「へ?」
「狭いですけど、どうぞ」
「…まじ?」
「まじ」

一緒に寝るのはテレくさい。
でも断ったらきっとすげえ勇気で言ってくれただろう愛ちゃんが傷つく。
一瞬の間にすげえ早さで頭の中を駆け抜けていった。

「じゃあ、お言葉に甘えて」

あたしも勇気を出して、愛ちゃんの隣に寝転んだ。

「おやすみなさい」
「おやすみ」


……。
なんなんだ、この緊張感は!
全然寝られやしねえ。
愛ちゃんの荒い息遣いを背中に感じながら、
あたしは眠れないまま羊を数えていた。


「ケホケホ…」

羊を数えながらいつのまにか寝てしまっていたあたしは、
愛ちゃんの咳で夜中目が開いた。
愛ちゃんに目をやると、
あたしを起こさないように気を使ってるんだろう、
背中をむけ、丸くなってタオルで口を押さえて咳をしている。
その姿があまりに愛しくて、あたしは愛ちゃんの髪をそっと撫でた。

「愛ちゃん、我慢しなくていいよ?あたし、寝てないし」

相当辛いのか、くるっとあたしの方を向いた愛ちゃんは
ぎゅーっとあたしにしがみついてきた。

「大丈夫だよ、あたしがそばにいるから」

我ながら臭いセリフだよななんて思いつつ
愛ちゃんの背中に手を回した。

「吉澤さん…」

泣きそうな声を出す愛ちゃん。
春から一人暮しを始めて、おそらく初めての病気だろう。
不安でたまんないはずだ。
むにゅうっと愛ちゃんがあたしの胸に顔を埋めてきた。

…やべ…。
ちょー心がうずうずするんだけど。
あたし、ノーマルだよね? 女だよね?
自問自答する。

でも、その答えが出てくる前に、
愛ちゃんを独り占めしたいって気持ちの方が大きくなった。
あたしは愛ちゃんの背中に手を回して抱きしめた。


「大好き」
「ふぇ?」
「ちょー大好き」
「ラブピですか?」
「違うくて」
「違う?」
「あたしの今の気持ち」
「何が大好きなんですか?」

…こいつ、まじで言ってんの?
天然?
小さくため息をついたら愛ちゃんが顔を上げた。
少しはにかんだ笑顔、
咳の所以で潤んだ瞳、
すげー色っぽくてたまんねえ。

「嘘ですよ」
「え?」
「嬉しすぎて信じられないです」
「…それって…」

次の瞬間、愛ちゃんの唇があたしの頬に触れた。
驚いて愛ちゃんを見つめたらにやってわらいやがった。
愛ちゃんって案外魔性の女かも…。
やられてばっかじゃリーダーが廃る。
あたしは愛ちゃんの唇にキスを落とした。
始めは抵抗しようとしてた愛ちゃんだけど、段々と力が抜けて来た。
途中、咳込むのさえもキスで塞ぐ。
あたしってば鬼畜かも。

「たまんねえ…」
「バカ…」
「バカでいいよ。むしろ愛ちゃんの前ではとことんバカでいたい」

リーダーのあたしがバカになれる場所があるとしたら、
それは優等生な愛ちゃんの前でしかない。
今やっと気付いたよ。
なぜあたしが最近こんなにも愛ちゃんが気になってたのか。
無意識のうちに身体が彼女を求めてたんじゃん。
そう思ったらいとしくてたまんなくなって抱きしめてる手に力が入った。
愛ちゃんが不思議そうにあたしを見上げる。

「離したくないよ」
「私もです」

愛ちゃんの風邪はかわいそうだけど、
二人の気持ちが通じあった大切な記念日だな、今日は。


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