3.
そして、いよいよ今日は愛ちゃんちへ初訪問。
愛ちゃんの提案で前の日、仕事終わりで泊まることになったから、
あたしはお泊まりセット準備中。
ちゃんとオシャレなパンツを用意して。
ふとあれの存在を思い出した。
…念のため、入れておこう。
その日の仕事はダンスレッスンで、
だけどこの日の愛ちゃんは超絶に調子が悪かった。
ミスを連発して、何回もレッスンが止まった。
こうなるとドッと落ち込んじゃうのが愛ちゃん。
そしたら悪循環でスタジオの空気も最悪だ。
普段優等生な分、こうまで出来ないとダンスの先生もイライラしてて、
さっきから愛ちゃんは何回も怒鳴られてる。
「もういい!30分休憩、高橋はちゃんとできるようにしとけ」
そう言ってスタジオの外に出ちゃった。
他のメンバーもどう対応していいかわからないみたいで空気が悪い。
「自主練してきます…」
愛ちゃんがMD片手にスタジオを出た。
…。
スタジオの空気が一瞬にして緩んだのを感じた。
なんだよ、これ。
あたしはキレそうになるのを抑えて、無言で後を追った。
愛ちゃんは屋上にいた。
何回もMDを再生してはダンスを繰り返す。
あたしにも気付かずに一心に。
5〜6回繰り返したところで、愛ちゃんは膝に両手をついた。
あれ?
その姿にあたしは違和感を覚える。
「愛ちゃん?」
あたしが声をかけると愛ちゃんは顔をあげた。
「よしざーさん…」
「もしかして…体調よくない?」
「え?」
愛ちゃんが目を反らした。
嘘つけないねえ、この子は。
あたしは近寄り愛ちゃんの額に手をあてた。
「熱あんじゃん」
「はい…」
「何で言わないの」
「だって…」
「だって何?」
「よしざーさんが…」
「あたし?」
「熱あるってわかったら来てくれん…」
「行くよ?」
「ほんと?」
「熱あるってわかったらむしろ一人にしとくの心配だから絶対行く」
「よかった…」
「それより大丈夫?寒いのにそんな薄着で」
「うん…」
「戻ろ?」
愛ちゃんは首を振る。
「休憩いっぱいここにいる…」
まあ、あの雰囲気のスタジオには戻りたくないだろうな…。
「しゃあないなあ。あたしもいるとするか」
「え?でも…寒いよ?」
「こうしてれば寒くないでしょ」
あたしは後ろから愛ちゃんを抱きしめた。