ツアー初日。
何年たってもこれだけは緊張する。
リーダーになってからはそのプレッシャーは倍増で、
日々のことを書き綴っているノートはここ数日ぐしゃぐしゃだ。

やりのこしたことはないか?
メンバーは大丈夫か?


何回確認しても過ぎることはなかった。



当日になってもまず楽屋入りしてきたメンバーの顔色確認して、
リハの出来もチェック。
はっきり言っていっぱいいっぱいだ。
以前ならまいちんやアヤカの楽屋に逃げてた。
でも今はそういう訳には行かないんだ。


「スタンバイお願いしまーす」


スタッフが呼びにきた。
メンバーがスタンバイに向かうのを見届ける。
みんなの背中を見ながら気合いを入れ直した。
あたしが背中で示さないといけないから。
あたしが緊張した顔見せるわけに行かないから。
あたしが…

「よしざーさん」
「え?」
「行きましょ」

あたしがなかなか立ち上がらないのを見て、
愛ちゃんが引き返してきて声をかけてきた。

「愛ちゃん…」
「大丈夫ですか?」
「なにが?」
「なんか深刻な顔してましたよ?」

あら、みやぶられてんのか。
ならいっそ…。

「すいません、一分間首脳会議していいですか?」

マネージャーに頼んで二人にしてもらった。


「愛ちゃん…」
「はい」

あたしは無言で愛ちゃんを抱きしめた。

「よしざーさん?」
「暫くこのままいさせて?」

ぎゅーっと抱きしめたままのあたし。
最初は戸惑ってた愛ちゃんだけど、
やがてあたしの背中を優しく撫でてくれた。


「そろそろ行きますか」
「うん」

身体が離れたら薄ら寒くって一気に情けない気持ちになる。


「よしざーさん」

優しい声に顔をあげたら、
愛ちゃんが背伸びしておでこをこつんってしてきた。

「へへへ」

自然に笑みが漏れる。

「一分たったがし」
「行こうか」

二人笑顔で楽屋を飛び出す。



ありがとね、愛ちゃん。

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