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『愛ちゃん』

娘。がごたついて吉澤さんがかなり忙しかった夜、吉澤さんから電話がかかってきた。

「どうしたんですか?」
『開けて』
「へ?」
『今家の前』

慌てて玄関まで駆け降りた。
自動扉の向こうにはマンションの壁にもたれている吉澤さん。
扉を開けて外に出た。

「吉澤さん?」
『愛ちゃぁん』

そう言って抱きついてきた吉澤さんは酒臭かった。

「…酔ってます?」
「うん、酔ってるよぉ?」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃなぁい。だから泊めて?」
「いいですけど…」
「じゃあけってーい」

そう言って入ってくる吉澤さんはまっすぐ歩けてない。
思わず腰に手を回して支えた。

「優しいなぁ、愛ちゃんは」

吉澤さんは肩を抱いてきた。
泥酔状態じゃなかったら、嬉しかったんだろうな。


家に入った吉澤さんは床に大の字になる。

「吉澤さん、風邪ひきますよ?」
「いいよ、別に。誰も心配しないよ」
「心配しますよ。少なくとも私はすっげ心配します」
「そっかぁ、心配してくれるかぁ。嬉しいなぁ」

そう言いながら吉澤さんは私の膝に顔を埋めた。


しばらくそうしてたら私の膝に冷たい感覚が。
吉澤さん、泣いてる?
私が頭をずーっと撫でてたら、その態勢のまま、吉澤さんは寝てしまった。
強いリーダーを演じてる吉澤さん。
今日は相当気を張ってたんだろう。
そう思ったら全然いやじゃなくて、むしろこのまま寝かせてあげようと思った。


気がついたら私も寝ちゃってて、次に目が覚めたのは夜中3時。
あれ?
吉澤さん?

私のそばで寝ていたはずの吉澤さんの姿が見えない。

「吉澤さん?」

私は飛び起きて吉澤さんを探す。
吉澤さんはトイレにいた。
自分で指つっこんで吐いてた。


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